書評 村上 敦(著) 「カーシェアリングが地球を救う」環境保護としてのニュービジネス

北海道大学大学院情報科学研究科 川村秀憲

地球環境の今後を考えれば,如何に環境問題に取り組んでいくかは社会問題としてだけ ではなく,研究テーマとしても大変重要である.今後,ITの発達によって在宅勤務の割合が増えていき,また生産性向上から一人一人の余暇の時間が増加する という希望的観測をするならば,観光における旅行者の移動が環境に与えるストレスを減少させることの重要性は増してくるように思われる.

現 在,旅行は団体旅行から個人旅行へシフトし,個々がレンタカーなどによって自由に旅行することが一般化しつつあるが,一度に大量の人々を運ぶ公共交通機関 に比べて,レンタカーが環境に与えるストレスは大きいはずである.従って,どうやって公共交通機関とレンタカー利用を共存させ,トータルとしてより環境破 壊の少ない方策を探っていく必要があると思われる.

本書は,人がそれぞれ個々に車を所有することよりも,共同利用によって環境破壊を行う ことを防ぐことができる「カーシェアリング」の概念と,主にヨーロッパでの実施例について広く解説している.レンタカーとカーシェアリングの概念は似てい るが,カーシェアリングは車をより細かく街中に配置し,街中の至る所で簡便な手続きによって借入・返却できるように整備したシステムである.このように, 共用の車の利便性を上げることで,人々が車を「所有」することから「利用」することに価値を見いだすように価値観のシフトを促し,公共交通機関との接続性 を向上させることで,個人の利便性を損なうことなく環境破壊防止といった公共の利益を増加させることができると考えられる.観光情報学の観点から見ても, 観光客動線のインフラの将来像を探る上でカーシェアリングは興味深い題材であると思われる.

本書は5章から構成されており,1章は,単に 概念的なカーシェアリングのメリットだけではなく,ニュービジネスとしてのカーシェアリングについて簡単に述べ導入としている.2章はカーシェアリングの 誕生の歴史について述べており,3章ではドイツにおけるカーシェアリングの現状について述べている.4章では実際にカーシェアリングをビジネスとして成り 立たせるためのシミュレーションについて述べており,5章では法律問題を含めたカーシェアリングの将来について述べている.

カーシェアリ ングを実現されるためには,共通のICカードや携帯電話,決済,車両の配置管理,車両の状態モニタリング,安全対策,など観光情報学会がテーマとして取り 組んでいることと深く結びついているので,我々が貢献できることも多々あるはずである.本書は,カーシェアリングの概念と実用例の入門書として,大変よく 書かれている本であると思われる.

□書籍
「カーシェアリングが地球を救う」 環境保護としてのニュービジネス
著者:村上 敦
洋泉社 ; ISBN: 4896918665 ; (2004/11)

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