第2回全国大会の観光情報学研究会の活動報告会に参加して

北海道大学大学院情報科学研究科 川村秀憲

平成17年5月16日に行われた第2回全国大会に参加し,全国の観光情報学研究会(以下,観研)の活動報告会にてさっぽろ観研の活動紹介を行ってきましたので,他の研究会の発表も含めて報告いたします.

まず,さっぽろ観研の活動報告につきましては,さっぽろ観研の幹事である川村より行いました.さっぽろ観研は現在201名のメーリングリスト登録があり, 講演会と研究プロジェクトの2本柱で研究活動を行っております.平成16年度研究会は5回実施し,インターネットや携帯電話を利用したITの観光への応 用,障害者観光に関する報告,などの内容について講師をお招きして講演会を行った旨を報告しました.また,研究プロジェクトについては,5つの研究プロ ジェクトで研究が実施されていることを報告しました.まず,長尾先生(北大)をリーダとした「GPSに基づく観光動態調査プロジェクト」では,トヨタレン タリース札幌さんに協力いただいて,平成16年に全部で約220件の観光客レンタカー移動データを取得し,現在データ解析システムの開発中である旨を報告 しました.柳森氏(ホテルモントレ)をリーダとする「宿泊施設自己点検評価項目作成プロジェクト」では,公正なホテルの比較を実現するための基準作りのた めに,中国でのホテルランキングの評価項目を参考に自己点検項目を作成中である旨を報告しました.孫田氏(キョウエイアドインターナショナル)をリーダと する「障害者の旅を推進するプロジェクト」では,3月にクピドフェアのメンバー2人との体験グアム旅行を実施し,障害者の旅を推進するためのインフラのあ り方についての実証実験を行っている旨を報告いたしました.更に,大内先生(北大)をリーダとする「大規模自然災害地近郊観光地における風評被害の実態と 分析およびそのモデル化プロジェクト」では,風評被害の実態分析・対策マニュアルの作成・モデル化に取り組んでいる旨,平成17年1月17日に新潟県中越 地方地震災害における湯沢町の状況視察と風評被害対策マニュアル・義援金の受け渡しを行ったことについて報告いたしました.最後に,斉藤先生(北海道情報 大)がリーダを務める「アートツーリズム研究プロジェクト」では,アートツーリズムを推進するための決起大会であるアートツーリズムシンポジウムの開催  (平成16年11月5日,札幌モエレ沼公園),野外彫刻写真家 仲野三郎氏による北海道内の野外彫刻2100作品撮影写真データのデータベース化,北海道彫刻Webによる検索サービスの提供などを行っている状況につい て,報告いたしました.

ほくだいがくせい観研では,北大修士1年の森主査より活動状況について説明がありました.「学生ならではの自由 な感性で観光情報学に取り組む」「情報科学研究科の学生としてのスキルを活かす」といった,学生ならではの発想で研究活動を行っている様子が見て取れまし た.主な活動として,高谷敏彦氏(リコーシステム開発株式会社 )のご指導のもと,「お好み焼き屋 in 北大祭」という設定でBSC(バランスト・スコア・カード)を作成して経営戦略を立てる演習を行ったこと,その内容が『技術者のための現代経営戦略の方法 ―バランススコアカードを中心として』(コロナ社,大内 東, 高谷 敏彦, 森本 伸夫)という教科書に掲載された旨について報告がありました.学生のうちに経営戦略を取り入れた計画立案や運営方法を学んでいることは,業界を牽引する リーダとして将来が期待できるとともに,経営戦略を観光振興へ応用する手法については他の観研にも大いに参考になるところがあると思いました.

にせこ観研からは脇山主査より報告がありました.にせこ観研のメンバーを主体として行われている観光地倶知安戦略会議について,ニセコ地区へのITインフ ラの整備や,BSCを観光を使ったまちづくりに応用するための方法,信頼にたるデータの集積と分析の研究,倶知安における観光案内のモデル構築などについ て活発に議論を行っている様子が報告されました.また,インターネット動画配信による情報発信,お客様に喜ばれる印刷物の作成,観光ポータルや事業者のサ イト構築を目指したNPO法人 Niseko Information Worksの発足について,説明がありました.

はこだて観研で は,鈴木幹事より活動状況についての報告がありました.現在はこだて観研では,学生を含め63名の参加者がおり,定期的な研究会やシンポジウムを実施して いる状況について報告がありました.研究会では,函館を訪れる観光客の「生の声アンケート」を実施し,函館が抱える様々な問題点を明らかにするとともに, その結果を交通分科会や函館山分科会での研究に役立て,今後の函館観光のあり方について研究をいるということです.また,函館の観光コンテンツとその魅力 を実際に体験するために,函館観光の調査会を行ったそうです.多くの旧跡を含む観光ポイントを実際に巡ることで,研究会参加者が函館観光を見直すよいきっ かけになったようです.はこだては日本が抱える有数の観光地であるとともに,その規模やコンテンツなどを含めて,観光情報学の研究モデルケースとして最適 であると思います.今後,はこだて観研からは,情報学を基礎とした観光ビジネスモデルなどが続々と期待できそうです.

スノーリゾート観 研からは,劔持主査が活動報告を行いました.報告では,スキーマップル編集長によるスキー場とその近郊の情報発信の悪さの指摘を受けて,WEBとして発信 するための検討会を行っていることが説明されました.さらに,客が10年前の7割減にもなっているスキー場業界不況の状況説明と,現在スキー場の身売りに 関する調査が増えていること,そしてその調査が土地・施設の資産価値調査から全体的な調査・お金を稼ぎ出す可能性の調査へと変質している現況について説明 がありました.また,様々な研究調査を実施していくにあたって,学会活動・研究会活動が無料のボランティアと勘違いされてしまう現状があることについて報 告がありました.大学や研究機関は様々な研究テーマに対して関係省庁や機関などから研究費を受けて研究活動を行いますが,観研のような活動母体が今後どう やって持続的に研究を進めていくのか,考えていく必要があると思いました.

設立されたばかりのかが・のと観研からは,大藪主査が発足の 経緯と今後の活動計画について説明しました.特に,今後は5つの研究プロジェクトについて積極的に研究を進めていくそうです.まず,加賀・能登にある数多 くの歴史的な名所や文化人ゆかりの地および碑の観光資源活用法を検討する「旧跡・名所・文学ツーリズム研究プロジェクト」や,加賀・能登の代表的な8つの 温泉郷を対象に,これまでの団体宴会主体の温泉旅行から体験・発掘型のものへ移行し,リピータを発掘する「温泉ツーリズム研究プロジェクト」,「携帯電話 による観光案内システム研究プロジェクト」,「ホテル旅館点検評価研究プロジェクト」,そして,農林漁業振興に貢献する体験型観光であるグリーンツーリズ ム,持続可能な社会づくりと自然資源保全を目的としたエコツーリズム,ボランティアが障害者とともに旅を楽しむ福祉ツーリズムなどを推進する「グリーン・ エコ・福祉ツーリズム研究プロジェクト」などについて,積極的に推進していくそうです. これらの研究テーマは他の観研と共通するものも多く,学会を通じた観研間の情報交換や連携などによって積極的に全国展開可能な研究となると期待できます.

おきなわ観研からは,大会実行委員長でもある遠藤幹事より活動報告について説明がありました.おきなわ観研は現在106名のメーリングリスト登録者がお り,観光情報学会らしくメーリングリストやweb を通した議論・情報交換を積極的に行いながら,強力に研究活動を進めている状況が報告されました.特に,琉球大学の観光学科設立の際のアンケート調査,そ してそれをもとにした調査報告書の作成について説明がありました.日本全国の大学で観光に関する学科や学部,大学院を設置する動きがある中で,おきなわ観 研がおこなった調査や活動は大いに参考になると思われました.また,琉球大学の研究成果発表を含めたミニシンポジウムも実施し,研究内容を広く発信してい る様子が伝えられました.

飛行機の遅れで観研の活動報告には間に合いませんでしたが,後にゆざわ観研の岸野主査より,新潟中越地震にお けるゆざわ地区の状況,および風評被害についての説明がありました.風評被害の防止についてITによる情報交換や情報発信の効果が大きかったことなどにつ いて報告がありました.

今回の全国大会での各観研の報告を聞いて,全国の観光地で抱えるテーマの共通性がたくさん見えてきました.学会 設立の趣旨のひとつに,全国各地で行われている観光振興に関する草の根活動をボトムアップにつなぐ役目としての存在価値を持つことがあります.各観研の活 動が活発になるにつれて,この意義はどんどん重要になってきていると思いました.特に,ゆざわ地区における風評被害の防止と対策における全国の観研の連携 や,ホテル評価,障害者の旅,生の声アンケートなど,全国的に応用できる研究テーマについての今後の展開が期待できるものが多数あります.全国の観研に共 通するテーマを数多く見いだせたと言うことは,観光情報学が学問としてまさに成立しつつある現状を反映しているのだと思います.今後,ますます観光情報学 会が発展していくことを確信させる報告会でした.

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