ルポ 観光情報学会 第2回全国大会 パネルセッション3

琉球大学 工学部 情報工学科 岡崎 威生

パネルセッション3では『電子マネー~観光シーンでの活用~』と題したディスカッ ションが行なわれた。このパネルセッションは,急速に普及し活用され始めた電子マネーのビジネスシーンにおける現状と,観光ビジネスへの活用について議論 することが主旨であった。パネリストは,ビットワレット株式会社システム本部執行役員部長である宮沢和正氏,全日本空輸株式会社営業推進本部顧客マーケ ティング部長である内田晶夫氏,株式会社レイメイコンピューター代表取締役である比嘉徹氏の3氏と,司会進行役として沖縄県産業振興公社中小企業センター サブマネージャーである島田勝也氏の計4氏が壇上に上がった。

宮沢氏は,電子マネーEdy(Euro Doller Yen)運営組織の立場から現状を説明した。まず電子マネーサービスの特徴として,非接触型ICカード技術FeliCa を活用し高いセキュリティを保持していること,簡単・スピーディーな利便性の高い小額決算手段であること,リアル・サイバー・モバイル共通の決済とマーケ ティングを実現していること,種々のサービスと連携していることを挙げた。その結果現在のEdyユーザは累計発行枚数で1020万枚,携帯電話搭載で60 万台,月間利用件数で930万件となっていることを示した。またEdyが独立したカードではなく,会員証・キャッシュカード・クレジットカード・社員証・ 学生証などと連携して電子マネー機能を提供するものであること,携帯電話への組み込みが本年度から本格化することから,ユーザ数の拡大が予想される。利用 できる店舗数も20,000店を超えている。このような普及の背景には,「社会的背景」「事業者ニーズ」「消費者メリット」「技術進歩」の4つの側面があ る。社会的背景として,セキュリティ要求,交通カードのIC化,ポイント戦略や地域活性化など事業者の競争激化,IT活用による生活様式の変化が挙げられ る。事業者ニーズとして,売上拡大への販売促進,顧客開拓,CRM,レジのスピードアップ,キャッシュレス化が挙げられる。消費者メリットとして,お得 感,便利さの実感,安心感を挙げた。

そして技術要素として,非接触ICカード技術と通信技術を挙げた。また最近の動向として,元来の小額 支払い手段としての電子マネーが,マーケティングツールに進化していることが示された。このことが観光シーンでの活用につながり,異業種連携によるタイ アップ・キャンペーンや広告,リピート客の増加,地域活性化の可能性を示唆するとした。

内田氏は,サービスを採用したユーザの立場から戦 略を述べた。全日空はマイレージクラブ会員数が本年度1200万人を超え,その中のEdy対応カードは12 万枚である。まず,マイレージは航空会社の差別化戦略であり,その目的は「リピーター化」にあるとした。この点で観光地の戦略との共通点(他の観光地との 差別化によるリピーター生成)も指摘している。マイレージは本来はロイヤリティプログラムであるが,決して利用者に忠誠心を求めるものではなく,利用者に 提供するサービスであり,比較して選んでもらうスタンスである。次に,航空会社が他社との差別化を計る3つの要素「ダイヤ(商品)」「運賃」「サービス」 を示した。ダイヤによる差別化は現実的に困難であるため,運賃での差別化に走りがちであるが,その結果が経営に影響を与えることは明らかであるとした。実 際のユーザの航空会社選択は,3割が運賃を基準に,3 割がサービスを基準に,4割がこれらのバランスを基準にしていることを示した。ターゲットを知ることは重要であるが,この割合はTPOにより変化するた め,左右されないようにするためにも顧客化・リピーター化が戦略となると指摘している。

全日空がそのために選択した電子マネーは,従来の クローズな「貯める」「使う」マイレージを,オープンなものに拡大するものであり,サービス水準が上がる戦略となる。観光との共通点として,商品そのもの の差別化が困難な場面においては,価格ではなくサービスによる差別化がポイントであるとしてまとめた。

比嘉氏は,沖縄県内における電子マ ネーインフラを整備する立場から導入事例を述べた。電子マネーのためのPOSレジソフト開発は,販売店にとっての生産速度を高めるツールであり,電子マ ネーの「簡単便利」機能を効果的に発揮させるものであるとした。既に沖縄自動車道サービスエリア,美ら海水族館,首里城公園など県内主要な観光スポットに は導入済みであることと,その利用率の高さ,従業員の負荷低減につながっていることを示した。また,かんなタラソ沖縄での会員証との連携では,利用者に高 齢者が多いにもかかわらず有用性が示されている事例,自治体である那覇市役所全職員への職員証と連携した事例などを紹介した。次に観光ビジネスへの展開と して,共通のEdy-IDをタグとして電子マネー決済データを集約する観光データベース集積システムの提案があった。利用者に対しては利用額に対応したポ イントというインセンティブを与え,購買データ・動向データなどを基に観光産業振興の企画・立案をするものである。更に携帯電話での電子マネー利用者に対 する観光誘客システムの提案があった。集積したデータを解析した結果を現在観光中のユーザに対してナビゲーションコンテンツ配信するものであり,ダイナ ミックなマーケティングが可能になるとした。

会場からは,現在流通している電子マネーEdyとSuicaが統一化されないと消費者に不利 益になるのではといった発言があった。これに対し宮沢氏は,Edyと Suicaは技術的に同じ規格のものであり,実際にEdyとSuicaの両方に対応した機能を有する携帯電話が今年発売予定であるとコメントがあった。更 に2者の競争関係が商品開発につながり,結果的に消費者に有益になるとも加えられた。昨年度から始まった携帯電話への電子マネー搭載は,今年度対応業者拡 大により急激に促進されることが予想されており,電子マネーの簡便性という特徴がより強調され身近になると思われる。観光客の利便性と観光マーケティング 機能を高度化する可能性を持つ電子マネーの重要性を明確にするパネルセッションであった。

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